名古屋市中村区で、昭和14年の創業からおよそ一世紀にわたり暖簾を守り続ける老舗の和菓子屋「孝和堂(こうわどう)本店」へ行ってきました。
お目当ては、店主自らが手摘みした天然の「蓬(よもぎ)」だけで作られるという名物の草餅、期待を胸にいそいそとお店へ向かいました。
残念ながら季節の草餅はすでに販売終了していましたが、そこに佇んでいたのは創業当時の面影を今に伝える気品ある店構え。
一歩足を踏み入れた瞬間、極上の“いにしえ萌え”空間が広がっていました。名古屋に半世紀以上住んでいながら、こんなに素敵なお店を知らなかったなんて「だちかんわ!」と、自分の勉強不足を反省しつつ、その深い歴史と魅力をレポートします。
昭和4年建立の大鳥居とともに。中村区の歴史を見守る佇まい

お店が暖簾を掲げるのは、地下鉄東山線「中村公園駅」1番出口を出てすぐ、目の前にそびえ立つ真っ赤な大鳥居のふもとです。
この大鳥居は、昭和4年10月に中村区が名古屋市に編入された記念として建てられたもの。そのわずか10年後である昭和14年に、孝和堂はこの地で産声をあげました。
それにしても、この大鳥居の圧倒的な存在感、名古屋に半世紀以上住んでいながら中村公園にも今まで足を運んだことがなかった私。名古屋にもまだまだ出逢っていない街の歴史がたくさんあるのだと、改めてお出かけの楽しさに気づかされました。

現在の店舗は、創業70周年を迎えた平成19年にオールリニューアルされたものだそう。
しかし、新しく生まれ変わってもなお、随所に老舗の風格と日本の伝統美が宿り趣のある美しい佇まいを保っています。

通りに対して大きく開かれた入り口は、誰でもふらりと立ち寄りたくなる、昔ながらの優しさに満ちています。

ふと脇に目をやると涼しげな木製の格子戸が。これもおそらく創業当時から大切に引き継がれてきたものなのでしょうか。通り抜ける風の音が聞こえてきそうな、見事な職人仕事です。
ショーケースに並ぶ、賞味期限が記された心憎い木札

店内のガラスケースには、うす皮、豆大福、おはぎに葛桜と、手作りの和菓子たちが美しく並んでいます。
商品札にはよく見ると、名前の横に「(当日)」「(2日)」と、そのお菓子の賞味期限がそっと書き添えられており買い手への細やかな思いやりが心憎いですよね。

本わらび餅や抹茶しるこなど、夏にぴったりの涼しげな生菓子たちも。どれを連れて帰ろうか迷う時間も楽しい。
伝統を受け継ぐ、ずっしりとしたおはぎと本葛の葛桜

この日はお昼代わりに、定番のおはぎ2種と、涼やかな葛桜を買い求めました。

そして、和菓子を包んでくれたこの箱のデザインがまた素晴らしい!思わずコレクションしたくなるほどの美しさです。

箱の側面には「幸せをお菓子にのせて贈る店」という温かいメッセージが。お菓子をいただく前から、心がじんわりと満たされていくのを感じます。

まずは「おはぎ」と「黄粉おはぎ」から。
持ち上げると、驚くほどずっしりとした重量感があります。自宅で計ってみるとなんとどちらもピッタリ96g!狂いのない職人の手加減にただただ脱帽です。
そういえば芳光のわらび餅の厨房を見学させていただいたことがありますが、あれだけの数をこなしながら重量はピッタリなんですよね。

たっぷりのもち米を、どこか懐かしい甘めの粒あんと香ばしい黄粉が優しく包み込んでいます。しっかりとした噛みごたえがあり、まさに「古き良き日本のおはぎ」という素朴な美味しさが口いっぱいに広がります。

続いて、涼しげな「葛桜」。
暑い日だったので冷やしていただこうとしたところ、お店の方から「本葛を使用しているので、冷蔵庫には入れないでくださいね」と教えていただきました。
冷やしていただきたい場合は、食べる直前に20〜30分だけ。冷蔵庫に入れっぱなしにすると、葛が固くなってせっかくの風味が落ちてしまうのだそう。こういった本物へのこだわりを教えてもらえるのも、老舗ならではの醍醐味です。

みずみずしい透明な葛の中に透けるのは、なめらかで上品なこしあん。珍しい鮮やかな青葉の桜の葉に包まれており、その苦味と塩気がこしあんの甘さを格段に引き立てます。
長年愛されてきた老舗の味に間違いなし、です。
荷車を引くお百姓のオアシス。大粒のおはぎに隠された優しさ

あまりにも店内の雰囲気が素晴らしかったため、お店の方にお声がけして、その歴史の欠片たちをカメラに収めさせていただきました。

平成の改装の際、天井は新しくしたものの、頭上を通るこの立派な「梁(はり)」は創業当時のものをそのまま残したのだそう。半世紀以上の時をここでじっと見守ってきた木の温もりが、空間に深い重厚感を与えています。

待合スペースに置かれた、細足がレトロで愛らしい椅子。こちらもため息が出るほど素晴らしい年季の入り方です。
行商人たちの憩いの場
孝和堂の公式サイトによると、創業当時は大治や七宝、津島といった地域から、お百姓さんたちが収穫した作物を荷車に載せ、名古屋駅周辺まで長い道のりを引いて運んでいた時代だったのだとか。
その過酷な道中にぽつんと佇むこの和菓子屋で、甘いものを食べて一服することこそが、当時のお百姓さんたちの何よりの楽しみだったそうです。
先ほどご紹介した「おはぎがずっしりと大きくて食べ応えがある」のも、荷物の番をしながら片手でパッと食べられて、しっかりお腹が膨れるように……という、初代の優しい知恵から生まれたものなのかもしれません。店頭にある縁台に腰掛け、汗を拭いながらおはぎを頬張る昭和初期の人々の賑わいが、目の前に浮かんでくるようです。
お正月を過ぎたら出会える、幻の「手摘み草餅」
ちなみに、今回惜しくも逃してしまったお目当ての「草餅(蓬餅)」は、毎年お正月が明けた1月から販売がスタートするそうです。
市販の蓬粉末や冷凍ものは一切使わず、手摘みで収穫した天然の蓬のストックが切れた時点でその年の販売は終了。今年は6月末に終了してしまったそうで、私の訪問は惜しくも間に合わなかった。
遠方から草餅をお目当てに行かれる方は、事前に電話で予約をしてから足を運ぶのが安心ですね。
駐車場は?
お車でお越しの際は、店舗の脇の道をそのまま北へ70メートルほど進んだ先の左側に、専用の駐車場が完備されています。
さいごに
中村区のシンボルである大鳥居のふもとで、昭和初期のノスタルジーを今に伝える孝和堂本店。
もしこのお店との出逢いがなかったら、私は死ぬまであの赤い大鳥居の歴史を知ることもなかったかもしれません。
職人技が光る素朴で力強い和菓子とともに、この街が歩んできた温かい歴史のロマンを、ぜひみなさんも肌で味わってみてくださいね。
念願叶って購入できた草餅のレポートはこちら(姉妹ブログに飛びます)↓

※ 記事の情報は公開日月時点のものです。
最新状況については公式サイト、お電話にてご確認くださいませ。
店舗情報&MAP
<店舗情報>
孝和堂 本店 (こうわどう)
住所:愛知県名古屋市中村区鳥居通5-32
アクセス:地下鉄東山線 中村公園駅1番出口すぐ
電話:052-471-6246
営業時間:8:30~19:00
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)
駐車場:有(店舗北)


コメント