歴史の街に佇む白い箱船。菊竹清訓の傑作「萩市民館」と、そこに息づく日常のグラデーション

中国

山口レトロ旅、元乃隅神社→疑洋風建築「萩学校職員室」→芳和荘(現在休業中)を回った後に辿り着いたのが、宇宙船のように佇む「萩市民館」。

歴史ある山口の街並みに異質に思える近代建築は、建物の中に踏み入れるとさらに圧倒されるようなレトロフィーチャーな世界が広がります。

萩が持つ「維新の地」としての歴史、「新時代への船出」をテーマにデザインされた萩のモダニズム建築「萩市民館」、すべてを包み込む萩の奥深さを感じました。

歴史の街に、未来の「箱船」はなぜ降り立ったのか

武家屋敷の街並みに突如現れる、宇宙船のような外観の萩市民館

武家屋敷のなまこ壁や黒板塀が続く静謐な萩の街に現れる、アンバランスで、独特な造形をしたモダニズム建築「萩市民館」。

歴史的価値を持つ近代建築としてDOCOMOMO Japan「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に2012年に選定されています。

DOCOMOMO選定プレートが掲げられた萩市民館のエントランス付近

1968年(昭和43年)、明治維新百年の節目に、建築家・菊竹清訓(きくたけ きよのり)の設計により「新しい時代への白い箱船の船出」として建てられました。

天井のダイナミックな立体トラスの骨組み

萩市民館の内部、天井一面に広がるダイナミックな立体トラス構造

館内へ一歩踏み込み、天井を見上げるとダイナミックな立体トラスに心奪われます。

ホールに続く巨大な扉も格納庫のように見えてきますね。

格納庫のような重厚感のある大ホールの扉と立体トラスの天井

まるで宇宙船を思わせるレトロフィーチャーな光景。放射線状に広がるトラスの圧巻の迫力に足がすくみ、見あげすぎて首が痛くなっちゃいました(笑)。

宇宙船を演出するガラス天井からの光

斜めのガラス屋根から自然光が差し込むレトロフューチャーな空間

天井のダイナミックなトラス構造と共に幻想的な宇宙船を感じさせる、斜めの天井(壁?)のガラス窓。季節と時間によって様々に表情を見せる光の演出です。

石井幹子の照明デザインとワイヤーが張り巡らされた天井付近の陰影

石井幹子が手がける「光の魔法」、ガラス屋根から差し込む自然光と、トラスの合間に張り巡らされたワイヤーや照明器具が生み出す、冷質でいて神聖な陰影。

巨匠たちが計算し尽くした圧倒的な美学が、この宇宙船に詰まっているのですね。

レトロフィーチャーとあたたかな萩の日常

舞台と、萩市民憲章が大きく掲げられたロビーの様子

羽を広げ天井を支えるように見える舞台。

左手に大きく貼られている筆文字は「萩に生まれたこと、萩で暮らすことを誇りに思う」と書かれています。 萩の喫茶店「ビレッジ」にてマスターとお話した時にも萩への誇りを強く感じました。

市民館のロビーでくつろぐ人々の温かな日常の風景

わたしたちが中に入った時には右のテーブルと椅子で、学校帰りと思われる女子中学生たちが体操服でお昼ご飯であろうパンを楽しそうに食べていました。

このホールで演奏会や合唱コンクールなどが開催され、すでに萩の日常に溶け込んでいるのだと思いました。 単なる立派な”箱モノ”ではなく、萩の人たちに愛されているのですね。

かけられた南京錠と、この街が未来へ繋ぎたいもの

老朽化により閉鎖され、南京錠がかけられた小ホールの扉

わたしたちが訪問した2026年6月現在、大ホールなど一部の施設は、天井の構造的安全性や吊り金具の老朽化といった問題から、現在は利用が休止され、扉には南京錠がかけられていました。
存続か解体か、今まさに萩市民館は切実な岐路に立たされています。

しかし、だからといってこの市民館が「過去の遺物」になってしまったわけではなく、閉ざされた重い扉の横では、中学生たちが楽しそうにおしゃべりを楽しむ日常が息づいていました。

安全上の課題とどう向き合い、この空間をどう未来へ繋いでいくのか。歴史を大切に守り続けている萩の街の決断を見守りたいですね。

まとめ:姿を変えても、あの「箱船」が見た夢は消えない

見上げるようなアングルで撮影された萩市民館の近代的な構造美

10年後、萩市民館はどのような姿になっているのだろう? 10年後も変わらずレトロフィーチャーな姿を残してくれているのだろうか。

例え形を変えても、ダイナミックな天井トラスや、光が醸し出す宇宙船のような空間は萩の街の人たちの心に生き続けるのだろう。

そしてここにも、あの迫力あるモダニズム建築と現在の姿をしっかりと記録として留めておきたい。

*2026年6月訪問、撮影

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